音声認識技術駆使し、患者情報の確認業務をAIで効率化
アドバンスト・メディアが済生会熊本病院と共同開発
患者のアレルギー情報などを病棟や病室の移動中にスマートフォンから確認できる-。看護業務のさらなる効率化に向けた開発が現在、急ピッチで行われています。開発を進めるのは音声認識システム「AmiVoice®」などの開発や販売を手掛けるアドバンスト・メディアで、熊本県の済生会熊本病院と共同研究に着手しています。多忙を極める病院の看護師。さまざまな患者情報を、その都度、パソコン(PC)で確認するために業務が滞るという経験をしたことのある看護師は少なくありません。AI音声認識システムを活用しながら、看護師の業務効率を探っています。
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2019年12月、済生会熊本病院と共同開発を開始。AI音声認識を活用した対話型の看護アシストシステムの開発を進めています。患者情報を、その都度、看護師はPCで確認しているという状態や、複数の画面を開きながら患者一人の情報を確認するという現状を目の当たりにした同社。「情報確認を簡素化し、素早く直感的に簡単にできないか」(医療事業部営業グループセクションマネージャーの隈部洋輔氏)という目線で共同開発に着手しています。
同社がイメージしている看護アシストシステムを見てみましょう。看護師が「5西のシライユウさんの禁忌アレルギー情報を教えて」とスマホに向かって問いかけます。すると同社が提供する診療データベースで、「5西」(病棟)「シライユウ」(患者名)など要素分析が行われ、「えび・かに・甲殻類・ぜんそく」などの情報を瞬時にアプリが回答するというものです。こうした該当患者を発話で選択し、確認したい情報を問い合わせる「患者選択機能」のほか患者が行う検査をタイムライン形式で表示する「検査オーダ情報表示機能」や個人と病棟の「リマインダー機能」も開発しています。現在は看護業務における共同研究ですが、今後は他部署や他利用シーンへの拡大に隈部氏は意欲を見せます。
共同開発の様子は、CBホールディングスが8月29日に開催したオンラインセミナーで、同社が講演した「スマートデバイス活用によるDX推進最新事例」で明かしました。
この共同開発のベースとなっているのはスマホ向けの「AmiVoice iNote」です。ポイントは大きく3つあります。1つ目が、スマホのアプリを立ち上げ、音声でメモを入力し、パソコンに転送できるため、病棟などへの移動時間でも業務ができます。2つ目は、オンプレミスでのサービスのため、登録データはサーバー管理でセキュアな環境の中、使用できます。3つ目が医療用語に対応しているため、発言内容をスムーズに文字化できます。隈部氏は「いつでも・どこでも・簡単に” 記録を残せることが、AmiVoice iNoteの最大の強み」と強調しました。
セミナーでは、共同開発のほかに、済生会熊本病院と日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院でのAmiVoice iNoteの活用事例も紹介されました。
■医師のカルテ記載時間が半減、済生会熊本病院
済生会熊本病院は、医師から医師事務作業補助者へのタスクシフトでAmiVoice iNoteを活用。形成外科の坂田憲亮・清川兼輔両氏が発表した論文を引用しながら、働き方改革の成果などを隈部氏は説明しました。
安全性や正確性が特に求められる手術や外科処置。業務効率の向上で目を付けたのが病棟回診です。坂田氏ら形成外科の医師は、これまで創傷回診が一通り終わってから、記録を電子カルテに入力していました。それですと、回診から記録入力までにタイムラグがあり、記録漏れや内容の曖昧さが課題に。それをAmiVoice iNote を活用し、医師事務作業補助者へタスクシフトを実現しました。
具体的にはこんな流れです。回診が終わり、病棟や病室への移動というスキマ時間で、医師がスマホのアプリを立ち上げ、音声入力を行います。入力したメモは、医師事務作業補助者のPCから誤字脱字を確認し、電子カルテへ転記・仮登録します。その後、医師が内容を確認し、承認します。
AmiVoice iNoteの導入で、医師のカルテ記載時間が短縮しました。これまでかかっていた時間は初診患者1人当たり平均で535.2秒。導入後は283秒で約5分削減できました。再診患者は156.8秒で、導入前に比べ約1分減。「定量的にも効果があること確認されています」(隈部氏)。
医師だけでなく、医師事務作業補助者や看護師の業務効率の向上にもつながっています。
音声入力で転記されたメモの中には、内容が不明瞭なものもあります。医師の音声は、PC上で医師事務作業補助者も確認できるため、音声を聞き、電子カルテに代行で入力することができる。このため、医師が戻ってから短時間で確認することが可能となり、「業務時間終了後の確認や残業をすることなく帰れる」と隈部氏は言います。
創傷回診では看護師も一緒にラウンドします。看護師はデジカメで創部を撮ることが多く、いざ使おうとすると充電切れなんてことも珍しくありません。AmiVoice iNoteは、スマホのカメラ機能で撮影した創部の画像をメモと同じようにスワイプ操作するだけで、電子カルテに転送できます。「デジカメの事前準備が不要になっただけでなく、患者さんに創部の状態を、スマホ画面で拡大しながら分かりやすく見てもらうことができるようになった」といいます。
日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院では、電子カルテ端末の台数が限られていることから派生する、入力業務の滞りによる時間外勤務という課題を、AmiVoice iNoteで解決しました。
■看護師の記録時間1日30分短縮、日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院
患者や家族との面談も多い看護師。看護記録を電子カルテに記入するものの端末には限りがあります。入力したいタイミングが合わなかったり、他に優先する業務が重なったりして記録が後回しになることも。外来受診の予約から入院、退院までの医療・療養を一貫してサポートする「看護支援センター」に病棟から移動する際に、記録メモを音声入力。同センター到着後、電子カルテへメモを転送し、追記や修正しながら面談の記録を残しています。
「AmiVoice iNoteの活用で、こうした看護師の記録時間が1日で30分ぐらい短縮できたといいます」(隈部氏)。また、記録として残したいことを端的にまとめながら音声入力することから、記録事項が分かりやすくなったり、患者の急変時や転倒時に時刻や呼吸状態などをメモとして音声入力で残し、後で記録したりするなど、新たな使い方が医療現場で生み出されています。
■音声認識技術フル活用で、医療現場の働き方改革に貢献
既存の製品や共同開発とは別に、感情分析を音声認識技術と組み合わせた医療従事者自身で確認できるストレスチェックや、院内コミュニケーションツールとしての機能を模索するなど、音声認識技術を活用した医療現場の働き方改革へ貢献-。同社はこのような展望を見据えています。
アドバンスト・メディアと済生会熊本病院が共同開発開始
https://www.advanced-media.co.jp/newsrelease/29520
医療向けAI音声認識ワークシェアリングサービスAmiVoice iNote
https://medical.amivoice.com/inote/
【AmiVoice iNote|導入事例】日本赤十字社愛知医療センター 名古屋第二病院
https://youtu.be/rblvf3rANoA
医療介護経営CBnewsマネジメント
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